「和文和訳」で文章力を磨く

日本語の特性を知り、様々な文体を使い分けること。これは私用・公用にかかわらず良質な文章を書くために重要なスキルです。「和文和訳」でそのセンスを磨きましょう。

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述語中心文(動詞中心文)と主語中心文(名詞中心文)

『日本語作文術 伝わる文章を書くために 』(野内良三著)は次のように指摘しています。

  • 最もオーソドックスな日本語の文は「述語中心文」である。すなわち、文の核となるパーツは文末の述語(動詞または形容詞)である。
  • これに対して、英語は「主語中心文」で構成される。すなわち、文の核は文頭の主語(名詞)である。
  • 基本的に「述語中心文」は発言者の主観もしくは事実の記述は出来るが、客観的な記述には向かない。
  • 客観的な記述には「述語中心文」よりも「主語中心文」の方が適している。
  • 日本語でも「主語中心文」を書くことは出来る。いわゆる「翻訳調」の文である。

作文といっても、エッセイや感想文などのような文章を書く時と、論文や報告書を書くときとでは、重視するべきものが違ってくるわけです。

細かく言えば、エッセイの中でも何かを論理的に説明する必要が出てくることはあります。逆に硬い報告書であっても序文で読者の感情に訴えることが必要になるかもしれません。一つの文章の中でもTPOを考慮して最適な文体をその都度選び出さねばなりません。

主語は名詞なので、主語を重視する文を組み立てるということは、名詞を中心として文を組み立てるということになります。一方、述語として働くのは広い意味での動詞(形容動詞・形容詞を含む)なので、述語を重視するということは動詞を重視するということになります。

和文和訳で文章力を鍛える

『日本語作文術 伝わる文章を書くために』では、動詞中心文と名詞中心文との相互変換練習を推奨しています。これは日本語の文を意味を変えずに別の日本語の文章に変換する作業であり、すなわち「和文和訳」というわけです。これにより、硬軟自由に表現を調整できるようになり、表現力を鍛えることが出来るとしています。

具体的には次のような文章変換を練習することになります。

  • 動詞中心文を名詞中心文に書き換える
    • 動詞を名詞に変える
    • 副詞を形容詞に変える
    • 無生物主語を使って書き換える
  • 名詞中心文を動詞中心文に変える
    • 名詞を動詞に変える
    • 形容詞を副詞に変える
    • 無生物主語を使わない表現に変える

動詞を名詞に変えるとは、「増えた」「増加した」→「増加」のような書き換えをすることです。また、形容動詞の変換もこのカテゴリーに含まれます。たとえば「静かだ」→「静か」のような例が該当します。

副詞を形容詞に変えるとは、「上手に」→「上手だ」、「たびたび失敗する」→「たびたびの失敗」のような書き換えを指します。

文法的には「たびたびの」は「名詞+助詞」であって形容詞ではありません。しかし、「失敗」という名詞を修飾しているので、形容詞として働いていると見ることが出来ます。このように、個々の単語について単純に品詞の分類をするのではなく、それらの文中の働きをよく吟味することが重要になってきます。

実践の例

最近の新聞記事から例文を取り出し、名詞中心文・動詞中心文量方向への書き換えをやってみました。

  • (原文)「小池都知事は、懲戒処分などの対応に踏み切る考えを初めて示した。」
    • (動詞中心的に書き換え)「小池都知事は、懲戒処分などを行うことを考えると初めて述べた。」「小池都知事は、懲戒処分を考えると初めて述べた。」
    • (名詞中心的に書き換え)「懲戒処分などの対応の初の示唆が、小池都知事によってなされた。」
  • (原文)「先月30日に公表された都職員による調査報告に議員から批判が相次いだ。」
    • (動詞中心的に)「議員たちは、先月30日に都職員が公表した調査を相次いで批判した。」
    • (名詞中心的に)「都職員による先月30日公表の調査報告は、議員たちからの多数の批判に晒された。」
  • (原文)「盛り土のない設計に変わった時期や責任者が特定されていないからだ。」
    • (動詞中心的に)「盛り土のない設計がいつなされたのか、その責任を誰が取ったのかを、示していないからだ。」
    • (名詞中心的に)「盛り土のない設計への変更時期や責任者の呈示がないからだ。」

解説書に書かれている単純で典型的な文であれば書き換えも単純ですが、実際に文章で使われている文の多くは、典型的な名詞中心文でも典型的な動詞中心文でもありませんので、単純な考えでは書き換えができません。ただ単語を置き換えるだけではなく、不自然な文にならないように思い切った語順の入れ替えや更なる単語の置き換えが必要になることもあります。

作業は意外に難しいというのが偽らざる感想です。しかし、一つのことを表現するにも、実に色々なパターンの文があり得るということを再認識できます。「和文和訳」は、たしかに表現力を磨くのに有効そうです。

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