「は」の前に来るのは主語だけではない

今回は助詞「は」の使い方に焦点を合わせてみます。「は」に導かれる語句は、「主語」の概念を超え、多様な形態の「話題」を示すものです。

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前の記事で、助詞「は」と「が」の違いについて書きました。使い分けが問題となるようなケースでの「は」は「主語」を受ける助詞と多くの人が認識していると思います。

しかし、識者たちは、「は」にはもっといろいろな機能があるといいます。

「は」の色々な機能

『日本語練習帳』(大野晋著)は、「は」には次の4機能があるとしています。

  1. 問題を設定してその下に答えが来ると予約する。
  2. ふたつのものを対比させる。
  3. 限度を示す。
  4. 再問題化する。

『日本語作文術 伝わる文章を書くために』(野内良三著)も「は」は変幻自在であるとして、次のような用例を挙げています。

「この本は読みなさい。」
「(他の本はともかくとして)この本を読みなさい」という意味。「は」の前に来ているのは目的語
「大学は行かない」
「大学には行かない」を省略した形。「は」の前に来ているのは「場所・方向」を表す目的語

色々列挙してみましたが、これだけではなんだかよくわからないですね。以下に、特に説明を要すると思われる点について論じることにします。

予約の「は」

大野晋は予約の「は」を「問題を出して、その下に答えが来ることを予約する」と説明しています。

  • 山田くんはビデオにうずもれて暮らしている。
この例文に言葉を補うと、「山田くんはどうしているかというと、ビデオにうずもれて暮らしている」となります。「山田くんは」で、問題を「山田くん」に設定し、「ビデオに~暮らしている」がその答というわけです。

ここでいう「答」とは「新情報」のことです。これは日本語の文の中でもっとも重要なパーツです。大抵の場合、この重要なパーツは文末の述語として登場します。 こういう構造になっていることが日本語と英語の大きな違いの一つであり、日本語読解の際の重要ポイントとなるのです。

日本語の文には主語が二つ出て来ることがあると言われることがあります。その際によく使われる次の例文の構造も、上記の説明で明快に理解できるはずです。

  • 象は鼻が長い

どれが「問題」で、どれが「答」でしょうか。もうわかりますよね。

再問題化の「は」

次のような文に出てくる「は」を『日本語練習帳』では「再問題化」の「は」と呼んでいます。

  • 行くか行かないかは分かりません。
  • 訪ねてはきた。

最初の例を解釈してみます。言葉を補うと、「行くか行かないかという問題に関しては、分かりません」という感じになります。「行くか行かないか」は主語というより「主題」を表しています。

2番めの例は微妙です。言葉を補うと、「訪ねてきたか否かと問われれば、訪ねてきた。」という感じでしょうか。この文は大抵、後ろに補足分が続きます。「訪ねてはきた。しかしすぐ帰った。」のようにです。

いずれも、「は」の前の語句を「話題として確定させている」というのが大野晋の主張です。

文を飛び越えて作用する「は」

『日本語作文術 伝わる文章を書くために』ではもうひとつ注目すべき指摘が成されています。

  • 「は」は文を飛び越す。

例示されているのは「吾輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。」という「吾輩は猫である」の冒頭。 最初の「吾輩が」が、その文だけでなく、続く複数の文をも支配していると指摘しています。

「は」の前に来るのは英語でいう「主語」とはだいぶん違う

  • 「は」に導かれるのは「主語」というよりは「主題」である。
  • その主題の形態は非常に多様である。

実際、「**は、**」という日本語を英訳する場合、「は」の前に来る語は主語にするのではなく"As for **,"のように訳したほうがうまくいくことが多いです。

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